広島高等裁判所 昭和52年(く)40号 決定 1978年1月09日
少年 R・Z(昭三五・一・七生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意及び理由は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるが、要するに少年はすでに以前少年院(中等)に送致されたことがあるので、本当に立ち直るため今回は少年院ではなく、きびしい刑事処分を受けたいから原決定を取消し検察官に送致する旨の裁判をされたいというに帰着する。
そこで一件記録及び少年調査記録を精査して原決定の当否について検討するに、少年法第三二条は「保護処分の決定に対しては決定に影響を及ぼす法令の違反、重大な事実の誤認又は処分の著しい不当を理由とするときに限り、少年、その法定代理人又は附添人から二週間以内に抗告をすることができる。」と規定し、保護処分決定に対し少年の側からのみの不服申立の途を開いている。少年法が少年につき保護処分制度を設けた趣旨に鑑みれば、刑事処分を相当と認めて検察官への送致決定をすることが保護処分に比し少年にとつて不利益な措置であることは明らかであるから、保護処分よりも検察官への送致決定を望むという所論は少年にとつてより不利益な措置を望む主張である。かかる抗告は、上訴の利益がなきに帰するから不適法といわねばならない。なお、所論は窃盗事案について、少年は共犯者らに誘われ単に自動車を運転したに過ぎないのに、年長者であり、かつ車を運転したことから、少年が主犯であるとされているというけれども、原決定は少年が主犯であるとは全く述べておらず、従つてこの点が本件処遇の基礎となつているものでもない。その他本件各少年保護事件記録及び少年調査記録から認められる本件各非行じたいの性質、態様、少年の生育歴や非行歴、保護処分歴、家庭の保護能力、中等少年院退院後とりわけ試験観察中の生活態度等を総合して考察すると、その非行性は強く要保護性もまた高いといわねばならず、少年に対する保護処分の経過をも併せ考えると、少年を特別少年院に送致した原決定は相当である。(原決定が「少年を特別少年院に送致する理由」として説示するところは当裁判所も相当として支持することができる。)原決定の処分に著しい不当があるとは考えられない。本件抗告は結局理由がないに帰する。
よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宮脇辰雄 裁判官 野曾原秀尚 岡田勝一郎)
参考一 抗告申立書
抗告の趣旨
私は今度特別少年院送致の決定を受けましたが、左記二つの理由により抗告を申し立てます。
その一つは、今回私が主犯だと思われていると言う事です。しかし私はただ車の運転をしただけで後は全部A君とB君がした事です。今回私はほんとうにうまくだまされました。と言ますのは私がただ車の運転をするだけでいい、と言われ運転をしたのです。もし警察などにつかまつたりしたら全部A君とB君がした事だから自分らのせいにするから心配しないで車の運転をしてくれたらいいと言われたのです。そして今回警察につかまり調べられましたが、全部私のせいにさせられました。
また私が年が一番上だつたし、運転をしたりしたので私が主犯だと思われている事です。
その二つは、審判の際裁判官に私の言う事が聞いてもらえず、また相手にしてもらえなかつた事です。審判の結果私は今回また少年院に入るようになりましたが、私は少年院送致ではなく刑事処分にしてほしいと思います。何ぜかと言うと私は前に一度少年院に入つた事があり今回二度目となるわけですが、私にとつて少年院はどこでも同じだと思います。
そして今回また少年院に入りましたがここでいくら真面目にしても社会に帰つたら一緒だと思うんです。今考えて見ても私は試験観察中でありながらも今回のような事件を起こしたのは気がゆるんでた事もあり、また少年院送致位いいと言うかんたんな考えからしてこんな事件をやつたんだと思います。だから今回また少年院を出ても同じだと思います。今はまだ保護観察だからいいと言う考えが起るかもしれない。それよりほんとうに自分のためにもまた父・母のためにもここで自分をほんとうにたち直るためにもおもたい処分にしてもらいたいのです。
私は前科がついてもいいまた刑務所に行つた方がいいと思つています。ほんとうにそれが私にとつて一番いいんです。自分でもここでほんとうにたち直りたい。だから私は刑事処分またおもたい処分にしてほしんです。
私はこれまでヤクザに関係したりしていましたが、これともえんを切りほんとうの自分の道を見つけたいんです。それには刑事処分にしてもらい今度失敗したらとり返しのつかない事になるんだと言う事を頭にいれておきたいんです。それでないとこのままだつたらとり返しのつかない事になり、ずるずると失敗をしそうな気がします。
ほんとうに今は正直な気持で刑事処分にしてもらいたいと思つています。この気持ちはかわりません。